第1章 英語教員に求められる資質能力と現職教員研修力
石田 雅近
はじめに
21世紀を迎えわが国の教育は抜本的な見直しを迫られ,教育改革を断行することが大きく叫ばれている。1996年に出された中央教育審議会からの答申「21世紀を展望したわが国の教育の在り方について」では,教員の資質能力の向上を図ることの必要性が指摘された。それを受けて教育職員養成審議会は1997年第1次答申「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」,1998年第2次答申「修士課程を積極的に活用した教員養成の在り方について−現職教員の再研修の推進−」,1999年第3次答申「養成と採用・研修との連携の円滑化について」を提出している。これからわかるように教員養成と現職教員の研修の改善は,今後の教育改革の大きな柱となってこよう。
1997年に出された教育課程審議会の「中間のまとめ」でも教員について触れて「創意工夫を生かした教育活動の充実などを進めるに当たっては,教員の意識改革が必要であり,養成・採用・研修の充実を図る」という方向を打ち出している。教員の質を高める必要性を認識しての答申内容となっている点からも,改めてその重要性・緊急性が十分感じられる。 また, 同じ1996年の中央審議会の第1次答申では,「外国語教育の改善」が国際化,情報化,科学技術の発展等社会の変化に対応する教育には欠かせないものと位置づけられた。これに呼応して1997年の教育課程審議会「中間のまとめ」に基づき,新学習指導要領では,外国語による実践的なコミュニケ−ション能力の育成を一層重視する方向で改訂された。これを受けて2000年1月には「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会」が発足し,ここでも「教員研修」と「教員養成,採用等」について審議されている。このような一連の動きは, 英語コミュニケ−ション能力育成にはこれから教員になろうとする者や現職英語教員の英語力・指導技術の向上が欠かせないものであるいう認識に立っている。それ以上に,現状の英語教育をそのまま継続するだけでは,21世紀に目指す教育目的は達成されないばかりか,外国語教育の本来の使命も果たすことができず,国際的にも日本が大きく立ち遅れるという危機意識に基づいた答申になっている。
現在,英語教員の資質向上を図る各種の研修が行われている。初任者研修,現職の教員を対象とする教育センタ−等が行っている教科の現職研修,文部省主催の英語教育指導者講座や海外研修派遣事業,2001年度から発足する大学院修学休業制度, また各種の学会や任意教育団体が行っている研修等がある。さらに,校内研修や教員各自が校外で行っているグル−プや個人単位の自主研修まで含めると相当数の研修の機会が存在するように思われる。しかし,その実効は,英語教員全体で見た場合では,必ずしも十分に上がっているとは言いがたいのではなかろうか。そこで本論では, 21世紀に求められる英語教員の資質能力をさらに向上させるための現職教員研修の基本的な問題点を明らかにすることを主なねらいとする。ただし,教員の資質能力向上は単に現職教員の研修の問題だけにとどまらず,これから教壇に立つ者を育てる教員養成の問題とも密接に関連し,循環する「人的資源」を構成して行くものであることを考慮して,適宜教員養成にも触れながら論を進めて行きたい。
II 英語教員に求められる資質能力とは
担当する教科内容にかかわらず教員が持っていなければならない資質能力は,時代や価値観が変化しても不変の部分がある。それは教員として学習者を向上させようとする「教育者の使命感や教育的愛情」であり,また「教科に関する専門的知識」,さらに主体的・客観的な判断が出来る「幅広い教養」と呼ばれるものに集約されよう。しかし,現在のようにめまぐるしく変化し多様化する社会では,それに加えて時代の変化に合わせて絶えず豊かにしていかねばならない資質が求められてくる。教育職員養成審議会の第3次答申では,21世紀の時代に「今後特に教員に求められる具体的資質能力」の例として,以下の項目が挙げられており新しい方向性を示すものとして注目される。
(a) 地球的視野に立って行動するための資質能力:
地球,国家,人間等に関する適切な理解/豊かな人間性/国際社会で必要とされる基本的資質能力。
(b) 変化の時代を生きる社会人に求め求められる資質能力:
課題解決能力等にかかわるもの/人間関係にかかわるもの(例:コミュニケ−ション能力等)/社会の変化に適応するための知識及び技能(例:外国語のコミュニケ−ション能力を含む自己表現能力)。
(c) 教員の職務から必然的に求められる資質能力:
幼児・児童・生徒や教育の在り方に関する適切な理解/教職に対する愛着,誇り,一体感/教科指導,生徒指導等のための知識,技能及び態度。
これらの資質能力には,20世紀の教員にも求められていたものも含まれているが,それらを包括しながら同時に,例示をし再整理したものと考えられる。下線を引いた項目(ただしここでは答申の一部を再掲した)については特に本プロジェクトチ−ムが注目して,英語教員にとってその任務を遂行する上で最重要項目と位置づけたものである。これを踏まえて我々「現職英語教員研修」プロジェクトチ−ムでは,英語教員に求められる資質能力として,次の5項目に限定した。
(a) 英語運用力
(b) 教授法・指導技術
(c) 教科に関する知識
(d) 教材を使いこなす力
(e) 生徒の能力を適正に評価する力
英語教員に英語コミュニケ−ション能力が欠如していては,目指すべき「実践的なコミュニケ−ション能力」を生徒に育成できる可能性が低くなってしまうことは論をまたない。教員の英語運用力は教科指導を行う上での最低条件である。現場教員の悩みのひとつは,「英語指導技術を向上させること」よりも,あるいは「生徒を掌握して教室内での適正なrapportを構築すること」以上に,自らの英語力を高めているという実感が持てないまま,日々教壇に立たなければならない厳しい現実がある。学級崩壊や授業破壊の割合が増える中で,教科指導以外に多くの時間を割かなければならない現状では,教科の目標言語である英語力そのものを向上させる時間が持てない悩みは深刻である。現在では,そのための研修は勤務時間外に行われる「自主研修」にまかされており,これを「職務研修」や「義務免研修」の一環として行える機会が少ないのは残念である。この現実は,生徒に実践的なコミュニケ−ション能力をつけようとする英語教員には大きな精神的負担を与えている。良心的な教員であればあるほど,それを何とか解消したいと希求し,個人のレベルで苦闘することになる。AETとの係わりを日常的に積極的に持たない限り,普段の教材準備や教室内の英語指導を通してだけでは,英語教員は自らの英語力を大きく向上させることは,まず期待できないであろう。やはり教員が定期的に英語力を向上させ,かつその向上意欲を喚起するような研修は,努力結果を評価するシステムも含めて,今後の現職英語教員研修を検討する際の重要な柱となるべきものと考える。
また,当然のことながら,教員の持つべき英語力は指導技術や教科内容の把握と連動するものである。コミュニケ−ション能力を養成するための英語力と指導技術は,いわば「車の両輪」の関係にあり,どちら一方が欠けても,授業は円滑に行われない。その意味では,指導技術の研鑚も絶えず求められている。スキルとしての運用力をつける英語の授業では,その目標言語である英語そのものを用いて,多様に展開するのが,最も自然であり望ましい形であるが,それが行われていない理由はさまざまに考えられる。少なくとも,そのひとつの理由としては教員が自らの英語力に自信がないためであり,もうひとつはそれと表裏一体の関係にある「指導技術」が不足している場合があり得る。指導技術は母語である日本語を使った授業でも高められる部分も存在するが,日常的に教壇に立って「自然に出て来る指導技術」は,教科内容そのものである英語を通して身につけた指導技術であることが好ましいのは言うまでもないであろう。そのような技術は校内のベテラン教員から「校内研修」という形で直接的に指導を受けることもあるし,まれではあるが,「指導法」の専門家である“Teacher Trainer”から受けることもあろう。生徒の学習段階や目標とする学習内容等により,指導法はさまざまに変化する性質のものである。もちろん,組織的・体系的に扱える指導技術もある。しかし,個々の教室現場・学習者集団に即応した形でしか効果的に学べない「指導技術」もある。教壇に立つ限り,生徒を引き付けて彼等にコミュニケ−ション能力をつけるのに有効な「指導技術」を磨いて行くことのは,現職教員の大きな義務であると考える。
教員の実際的な「英語運用力」と「指導技術」の両者は英語の授業の質を上げる中核となるものである。したがって,教員研修ではこの2つを統合した形で進められるのが望ましい。この両者をあえて分離したり,あるいは軽視するような研修は,その存在意義が極めて薄くなってしまうと言わざるを得ない。
さらに,生徒の英語力に合わせたコミュニケ−ション活動を工夫し,彼らの理解できることばで言語事象や文化に対する関心を深めさせ,国際理解を得させるには英語そのものに関する深い洞察力がなくてはならない。これは「教科に関する知識」が基盤となり,英語の音韻,語形,統語,語法,意味,談話,レジスタ−,身振り・ジェスチャ−をはじめとして日英語の相違や話し言葉や書き言葉の特性や機能等が含まれる。これらの教科に関する知識や内容は教える者として深い理解をもっているだけでなく,生徒が咀嚼しやすい形で提示できる技量を有していることが肝要である。教授者が理解している程度と学習者が理解できる程度にはいつも大きな差があることを考えると,そのギャップを埋める工夫も含めて英語の教科に関する知識を豊かに持ち,その知識の新陳代謝を図り,生徒にとって有意義で魅力あるものにするよう努力を重ねることは,急速に変化しつつある国際共通語となった英語を教える者の責務であろう。
上記の3項目のほかに「教材を使いこなせる力」や「生徒の能力を適正に評価する力」も,英語教員に限らず,どの教科担当者にも求められている重要な資質能力である。ここではこれらが英語教員に求められる5つの資質に入るということを指摘しておくにとどめる。
2000年12月に教育改革国民会議から出された「教育改革国民会議報告−教育を変える17の提案−」にあるように,まさに学校教育で最も重要なのは一人ひとりの教員である。授業で「実践的なコミュニケ−ション能力」を育成するために日々努力していても,それが教育目標における教員の職務の主たる部分を占めてはいない。教科指導では「受験に対応する力」,「学ぶ意欲や興味の喚起」,そして当然のことながら「授業への積極的な参加を促すこと」等が入ってくるし,さらに教科を離れれば「生活指導」,「部活指導」,「進路指導」等を含む膨大な仕事量が控えている。教員がその資質能力を評価される部分は,現在の「職階制」では管理職への道だけである。それ以外はいかに努力したとしても,昇進も給与も待遇もよくなることはない。現在のシステムでは教科の「指導技術」改善のために努力を継続し,「実践的コミュニケ−ション能力」育成の指導力をつけるために必要な「英語運用力」を強化しようというモチベーションが高まることはないと思われる。授業改善のために良心的に取り組んでいる教員の意欲や主体的な努力を正しく評価して,給与や待遇に反映させ,人事上の措置や顕彰することによって,報いて行く施策が求められている。その具体的な導入は一刻の猶予も許されない状況に,わが国の英語教育は直面していると考えられる。
III 現職(英語)教員研修の現状
ここでは現職英語教員が係わる研修について「公費研修」,「自主研修」,「在宅研修」と総称される研修を取り上げて,その内容を概観しながら適宜問題点を指摘して行きたい。
1.地方公共団体及び政府機関による「公費研修」
公立学校の教員研修は,昭和63年の「教員公務員特例法」の改正により,その重要性が強調された。特に,第十九条第一項では「教育公務員は,その職責を遂行するために,絶えず研究と修養に努めなければならない」と謳われている。研修をその職責遂行の不可欠の要件として位置づけており,教員の自覚による不断の研修を求めているのは注目すべき点である。しかし,この規定は教員の「研修権の保障」というよりは,研修を「努力義務」と解釈され,「服務義務」の一つとなっているのが現状である。
1) 研修奨励の具体的措置
「研修の機会」を与えるための具体的措置としては,次のように規定されている。
(a) 教育公務員には,研修を受ける機会が与えられなければならない。
(b) 教員は,授業支障のない限り,本属長の承認を受けて,勤務場所を離れ
て研修を行うことができる。
(c) 教育公務員は,任命権者の定めるところにより,現職のままで,長期間
にわたる研修を受けることができる。
この特例により,教員は勤務時間中に学校を離れて研修会に参加することができるし,夏季休業等の長期休業期間中に「在宅研修」が可能となっている。また,現職のままで,6か月から1年間,大学や研究教育機関に内地留学することができるようになっているのは,この特例法によるものである。
2) 現職教員が研修に参加する3つの場合
実際に現職教員が「公費」で研修に参加できる場合は,次の3種類である。
(a) 自主研修:勤務外に自主的に研修に参加する。
(b) 職務研修:職務命令により研修に参加する。
(c) 義務免研修:職務専念義務を免除され,勤務場所を離れて研修に参加する。
言うまでもなく,これらの研修は校長等の本属長から承認を得なければならないものである。
3) 研修の具体例
昭和63年のこの「教育公務員特例法」の改正によって「初任者研修制度」が創設され,平成4年度から幼稚園を除くすべての校種において実施されるに至った。この導入を契機に各種の研修が各都道府県・指定都市教育委員会及び文部科学省(平成13年の省庁再編成以前は「文部省」)によって各種の研修が進められてきている。その主なものは次の通りである。
(a) 都道府県・指定都市教育委員会が実施する研修
・ 「初任者研修」・・・採用されてからの初年度に教諭の職務の遂行に必要な事項に関して行われる実践的な研修。
・ 「教職経験者研修」・・・教職経験に応じた研修。
・ 「主任研修」・・・職能に応じた中堅教員研修の一つ。
・ 「専門研修」・・・教科に関する専門的な知識・技能のための研修。
・ 「管理職研修」・・・校長,教頭及び中堅教員を対象とした研修。
・ 「長期社会体験研修」・・・1か月から1年程度の長期にわたり教員を民間企業,社会教育施設,社会福祉施設等に派遣して行われる研修。
* 研修の区分や名称は各教育委員会等により異なる場合がある。
(b) 文部科学省が実施する研修
・ 「洋上研修」・・・各都道府県及び指定都市教育委員会から推薦された新任教員対象の研修。
・ 「中央研修講座」・・・校長,教頭等及び中堅教員を対象とした研修。
・「専門研修」・・・教科指導や生徒指導等に係わる研修。
・「教育情報化推進指導者養成研修」・・・情報教育の指導者を養成する研修
(「指導主事等講座」と「担当教員講座」に分けられている)。
上記の中には,現職英語教員一般に係わる研修として「教職経験者研修」と称される「5年次研修」,「10年次研修」,「15年次研修」及び「20年次研修」等がある。「専門研修」としては「英語教育指導者講座」や「海外研修派遣事業」が関係してくる。各々の年次研修では,その該当者数が多いため,勤務校における職務上の支障をきたさないという配慮から,研修期間が数日程度となっている。教育現場における教科指導上の問題を解決できるような「資質」を向上させ,「英語運用力」をつけるのにはあまりにも短すぎるという指摘は少なくない。研修期間は,教員各自の必要度や成熟度によって多様にならざるを得ないことを考慮すれば,その研修期間の設定は研修項目や内容に応じて一層の弾力化が望まれるのではなかろうか。
教育センタ−等で行われている研修項目は大きく分けて「英語運用力向上に関するもの」,「指導技術向上に関するもの」,「国際・異文化理解の向上に関するもの」等に集約されるようであるが,その具体的な研修内容の吟味や研修方法については,今後,本研究プロジェクトにとっても大きな検討課題であるが,ここでは「専門研修」の特徴を述べ,かつ問題点を指摘しておく。
�@ 英語教育指導者講座
「英語教育指導者講座」は現在では全国を6ブロックに区分して,3週間の研修期間をすべて英語によって行うものである。参加資格は英語教育に関して指導的立場にある中学校又は高等学校の教員となっている,各県ごとに,中・高教員合わせて12名を原則としている。現職英語教員に対する実質参加者数を考えると,この講習に参加できる教員は極めて限定されていると考えざるをえない。この講習会に参加する資格を得た教員が,少なくとも等しくその参加を申し込めるシステムに確立が必要であり,また研修が修了した後にその研修体験や内容を反映できる流れを校内・校外に作り上げる努力がこれまで以上に必要となってくる。これは「英語教育指導者講座」に限らず,すべての現職研修についてあてはまるであろう。
「英語教育指導者講座」も研修内容に関しては,平成11年に新潟県立教育センタ−で行われた「第3ブロック」に例をとると,次のようになっている。
・ 「新しいい指導と評価」
・ 「アクション・リサ−チ」
・ 「English Teaching Methodology:Lesson Planning」
・ 「リ−ディングの指導:ロ−ルプレイを活用した授業」
・ 「リスニングの指導:Computer Assisted Learning」
・ 「テスティング」
・ 「オ−ラル・コミュニケ−ションの指導」
・ 「ライティングの指導」
・ 「スピ−チ,ディスカッション」
・ 「実践的コミュニケ−ションの理論と実践」(講演)
・ 「Motivation」
・ 「Oral Interpretation」
・ 「Team Teaching」
この「英語教育指導者講習会」も規模を拡大して全国を10ブロックにまで広げ,研修参加者2,000名を目指していると言われているが,それが早く達成されることを期待したい。
�A 英語教員海外派遣事業
「英語教員海外派遣事業」の一環として平成11年度に海外に派遣される現職教員数の予算枠は平成11年度では「6か月」118名,「12か月」28名で合計146名となっている。ただし,この数は実績人数と一致しない。その理由の一つは,派遣が決定した教員については,その費用の半分を地方自治体が持つ必要があるためによるものと考えられる。平成9年度までは177名の枠が認められてきた「2か月」の海外派遣は,平成10年度から中止されているのは残念である。将来の日本の英語教育を担うことが期待されている人材を養成する可能性が高いこの「英語教員海外派遣事業」は,その研修を受けた教員が“Teacher Trainer”の専門家としてその資質を生かせるような職制やル−トを制度として確立することが求められている。このような国の事業が今後も円滑に推進されるためには,研修を受けた現職教員がその研修内容や経験を教育現場に戻っても,有効に還元できる仕組みが必要である。
�B 大学院修学休業制度
昭和53年度から次々に設置された大学院大学(兵庫,上越,鳴門)において,現職英語教員は学位の取得を目指した研修が出来るようになった。それに先だって筑波大学が研究生として現職教員の受け入れを開始している。教職経験3年以上の現職教員が各都道府県教育委員会から派遣される制度である。また,大学院設置基準第十四条に基づく特例措置により,教員養成系大学の大学院でも長期研修が可能になった。さらに教育公務員特例法等の一部が改正になり,平成13年度から教員が国内外の大学院に在学し,専修免許状を取得できる「大学院修学休業制度」が発足した。1年を単位とし3年を超えない期間,大学院へ通学し,研修を行うために休業できる制度である。研修の期間中は,教員の給与は支給されないものの,その身分を保有し,自分の意志で選択した大学院においてフルタイムで学ぶことができるという制度は,わが国には今までになかった画期的な長期研修制度である。専修免許状の取得を目指すことが前提であるが,この制度には海外の大学院で学ぶ可能性も含まれている。意欲ある教員に修士レベルの教育を受ける機会を多く与え,現職教員研修の質を高め,同時に研修の幅を広げようとするこの制度の創設の意義は大きい。この制度は研修の軸となる国内の大学院との協力や連携なしには,円滑な運用が行えない性質のものであり,その意味では,受け入れる教育系大学院の受け入れ態勢の柔軟な対応とさらなる拡充が要求される。佐藤(2000)によると,今のところ,わが国では修士号を有する教員は,小学校教員の1%,中学教員の2%,高等学校教員の8%に過ぎない。教育現場が抱えている輻輳した問題に対処できる力量を持つ教員は,教員養成制度を充実させることとあいまって,現職教員の専門性が集中的に高められるこの長期研修制度を効果的に運用する中から輩出されよう。
平成13年1月の「英語指導法等改善の推進に関する懇談会(審議経過報告)」から出されたように,「英語教員の英語を聞き・話す能力の一層の向上を図る」ために,また「資質の向上と指導力の涵養を図る」ためにも,「英語教育指導者講座」や「海外研修事業」の拡充,さらに「大学院修学休業制度」の活用等を含めた現職教員研修の早期充実が期待される。
2.任意団体や学会等主催の研修会参加による「自主研修」
各教育委員会や文部科学省が主導で行う「官研修」は,それに参加する際には所定の手続きが必要であり,「研修承認願」を提出し本属長の承認をえなければならない。その承認を得て始めて,職務専念義務を免除され,勤務場所を離れて研究に参加できるわけである。その条件が,自主的・主体的に研修を受けたいと願う教員との間に齟齬を生むことになり,おのずと参加人数が限定されてしまう結果となっている。これは「官研修」の避けがたい本質的な問題であると考えられる。しかし、「官研修」以外にも現職英語教員が受けられる研修が数多くある。それが,任意団体や学会・研究会等が主催する研修会に自分の意志によって参加する「自主研修」と呼ばれるものである。これは,教育委員会や国が行う「官研修」とも異なるし,またや教員ひとり一人が日常的に個人レベルで研鑚を積む「在宅研修」とも異なる性質のものである。ここでは,この種の研修を便宜上,「自主研修」と呼ぶこととする。
任意団体や学会等の主催による研修会は,現在ではその数が非常に多い。
ただし,開催規模,研修内容,講師の陣容,参加費用,研修期間等が多様である。ここではその主要なものの概要や特徴を挙げておく。
1) 全国英語教育研究団体連合会の「研修」
「全国英語教育研究団体連合会」(略称「全英連」)は,昭和25年(1950年)に全国の教員によって組織されている英語教育団体の横の連絡をとりために組織されたものである,平成12年(2000年)で50周年を迎え,会員数57,000名を擁しており英語教育研究団体としては全国最大である。全国を9つのブロック(北海道,東北,関東甲信越,東京,東海北陸,近畿,中国,四国,九州)に分けている。その数多くある事業のひとつに「研究会,講習会,講習会等の開催」があり,また毎年10月ないし11月に「研究大会」を開催している。その50回大会を記念して平成12年11月に『全英連50周年記念資料集』が刊行された。
全英連の活動は,「授業研究」を通して「現職英語教員の意識」を高める活動が中心であり,過去50年間の「研究協議題」や「分科会テ−マ」からも明らかである。昭和29年の第4回大会に関する「全英連の記(その4)」にライシャワ−氏が帰国するにあったて日本の英語教育改革のための提案について当時の「英文毎日」に掲載された一文が次のように転載されている。
There are three fundamental problems in English teaching in Japan. First, of all Japanese English teachers, most cannot speak English. They must improve themselves. Second, the teaching method is not geared to teaching people to speak. Electronic equipment is not yet used very much for English teaching. Third, the university examination system does not work for English communication. This system had to be changed. My suggestion is that English teachers be retrained in three- or six-month seminars. Considering Japan’s gross national product, a very tiny investment could overcome these difficulties, making tremendous contributions to the economic, political and cultural roles Japan will play.
(下線筆者)
全英連としても結成当初から「現職英語教員の研修」は,重要な課題であるという認識があったことがうかがえる。しかし,それが明確に「分科会テ−マ」として前面に出されたのは昭和51年の第26回大会からである。
�@ 現職英語教員研修に関する分科会テ−マと大会年度
・ 「英語教師の研修」(昭和51年第26回)
・ 「英語教師の研修」(昭和53年第28回)
・ “How to Improve Our Own Professional Ability as English
Teachers”(昭和54年第29回大会)
・“How to Improve Our Own Professional Ability as English
Teachers”(英語教師の研修)(昭和55年第30回大会)
・ 「英語教員の養成・研修はどうあるべきか」/“How to Improve
Our Own Professional Ability”(昭和56年第31回大会)
・ 「英語教師の研修」(平成4年第42回大会)
・ 「英語教員の研修」(平成5年第43回大会)
・ “In-service Training and Self-teaching/learning”
(平成7年第45回大会)
・ 「教師の研修法」(平成12年第50回大会)
早くから注目していた「現職教員の研修」を研究テ−マにしたのは昭和51年の第26回大会であり,平成7年第45回大会にIn-service Trainingということばがテ−マ名として出てきてことは注目に値する。一方,英語教員の英語運用力に関する分科会も「教員研修」が分科会テ−マとして選定される時期と呼応して現われた。
�A 現職英語教員の英語運用力に関する分科会テ−マ
・ “What I learned in my Study Abroad”
(昭和52年第27回大会)
・ “How to develop Our Own Ability to Communicate in English”
(昭和57年第32回大会)
・ “How to Develop Our Communicative Competence”
(昭和58年第33回大会)
・ “How to Develop Our Own Ability to Communicate in English”
(昭和59年第34回大会)
・ “How to Improve Our Communicative Ability”
(昭和60年第35回大会)
・ “How to Improve our Communicative Ability”
(昭和61年第34回大会)
・ “How to Develop Our Communicative Competence for
International Understanding”(昭和63年第38回大会)
・ “How to Improve Our Communicative Ability”
(平成2年第40回大会)
・ “Encouraging Our Communicative Competence”
(平成6年第44回大会)
昭和51年及び昭和52年を境に,「英語教員研修」と「英語運用力の養成」が同数回「分科会テ−マ」として取り上げられているのは興味深い。問題は年1回の全国大会での研究テ−マとしての位置付けは評価できるが,問題は一般の教員が,自らの資質を向上させるために,日頃からどれだけ実質的な「研修」や「運用能力」向上の努力を重ねているかである。その具体的な取り組みの実態は上記の資料からだけでは必ずしも把握できない。幸い全英連が50周年を迎えたのを機に,毎年発行してきた『全英連会誌』の復刻版(第1号〜第37号)を刊行し,各都道府県の高等学校及び中学校の教育研究会等でこれまでに行ってきた活動の詳細を知ることができる。各研究会の活動は,多いところで毎月あるいは隔月に1回,少ないところでは2〜3か月に1回の割合で開催されている。期間は2日間に渡るのはまれであり,ほとんどが1日あるいは半日で終了している。本務に支障が出ないように配慮して,研究会のプログラムが組まれているものと思われる。その実際の活動内容の内訳は,研究大会,講演会,公開授業,実践報告,研究発表,各種コンテスト等の開催,学力調査の実施・分析等である。これは,当然の事ながら「全国大会」プログラム内容と重なるものであるが,数週間に及ぶ「研究会」は見当たらない。教員の資質・能力を本格的に向上させる「研修」を意図するのであれば,ライシャワ−氏の指摘を引用するまでもなく,数週間に及ぶ集中研修やあるいは数か月継続するセミナ−を開催していくことが望まれる。それを可能にするための最低条件として,まず教育行政のレベルで,中・長期的研修会に,現職教員が安心して現場を離れることができる人的及び予算面での措置が必要となろう。
2) 英語教育協議会(ELEC)主催「英語教育研修会」
1956年7月に開催された「日本英語教育研究委員会(The English Language Exploratory Committee,後にThe English Language Education Councilに改称)」の英語教育専門家会議によって得られた「結論と勧告」に基づいて,1957年に始まった夏期講習会は組織的な現職英語教員研修としては最も古いもののひとつである。第1回目の参加者は東京都及び近県教育委員会推薦の英語教員20名と沖縄(琉球大学)からの特別聴講生2名を合わせ22名であった。主な目的は「現職教員の英語運用力の強化とオ−ラル・アプロ−チを中心とした音声指導の啓蒙と普及」である。コミュニケ−ション能力強化の担当講師はすべて英語母語話者であるという方針は,その発足当時から1994年まで堅持された。参加者は中高の現職教員が主であるが,高専や大学教員さらに指導主事も参加することもあった。研修期間中は合宿制をとるものとELEC研修所に通うものとに大別される。ここで訓練を受けた受講者の多くは,その後日本各地で英語教育の指導的立場に立ち,音声を重視したコミュニケ−ション能力の育成を推進する上で,大きな影響力を発揮している。1995年からは,それまでの1週間ないし2週間の合宿研修を取り止めて,代わりに春,夏,冬の年3回1日または2日間を1コ−スとして小人数制のセミナ−形式をとるようになった。現場教員の抱えている問題や英語教育に係わる本質的なテ−マを取り上げ,講師陣も日本の“Teacher Trainer”とも言える英語教育の専門家が中心となっている。この研修の対象者も公教育の英語教員だけに限らず,現在では公教育以外で教えている者や英語教員を目指す者も参加できるようになっている。幅の広い受講者のニ−ズに応えるべく,午前9時30分から午後4時20分までの1日ないし2日の集中セミナ−形式になり,使用言語は主として日本語である。ELECの現職教員の研修が発足した1957年から1999年までの受講者延べ人数は11,902名に登っている。研修内容は年度によりさまざまであるが,2000年度の内容は以下の通りである。
【夏期】中学英語の指導法:「基礎学力の定着をはかる指導」,「Articulatory Phonetics Workshop」,「音読から表現力への指導」,「生徒を巻き込むトキメキの授業」。中学英語のスキル指導:「発音とつづり字の導入」,「コミュニカティブ・グラマ−」,「コミュニケ−ション能力の育成と語彙指導」,「オ−ラル活動を基盤にしたリ−ディング指導」。ステップアップを目指した指導の工夫:「生徒と作る楽しい授業」,「コミュニケ−ション能力を育てる文法指導」,「自己学習型の授業を目指して」,「英語教師のステップアップ」。中学と高校の連携を目指した授業の方法:「中学英語の到達点」,「プロダクション能力の系統的指導法」,「Developing Junior High English into Successful Oral Communication in Senior High」,「連携の理念と指導のポイント」。高校英語の指導法:「高校英語のコミュニカティブな指導法」,「Presentation Skills and Debate」,「実践的コミュニケ−ション能力を育てる指導法」,「高校英語の統合的指導法と評価」。英語教育の課題に応える:「アクション・リサ−チ」,「英語の思考様式と論説文における理論展開」,「Teaching English for Self-Expression」,「テスト理論の基礎,定期テストの診断」。効果的なリスニング指導の実際:「リスニングのメカニズムと指導の実際」,「英語の音声をどうとらえるか」,「楽しく教えるリスニング指導の実際」,「オ−センティックな素材をもとにしたリスニング指導」。コミュニケ−ションのための文法指導:「場面を重視した具体的展開例」,「コミュニカティブ・グラマ−の考え方」,「4技能を育てる文法指導の方法」,「英語教師のための文法研究」。新しいリ−ディングの指導法:「新しいリ−ディングの指導理論」,「リ−ディングの実践的指導法」,「高校英語の読解と速読指導」。「文法訳読を超えた教科書の活用」。
ちなみに,この「夏期英語研修会」の参加者総数は66名で,その内訳は中学校教員18名,高等学校教員23名,中学・高校教員21名,小学校教員・大学教員・出版社4名となっている。
【冬期】効果的なリ−ディング指導の方法:「楽しく教えるリ−ディン指導の方法」,「入試に対応する長文・論説文読解の指導法」。コミュニケ−ション能力を育てる指導とテスト:「コミュニカティブな授業と実技テストのアイディア」,「レベルに応じたスピ−チの指導」。コミュニケ−ション能力を育てる授業作り:「生徒を自立した学習に育てる指導」,「生徒の意欲を育てる指導・表現力を伸ばすアクティビティ」。
【春期】中学英語の指導法:「音声中心の指導計画と授業の展開」,「使える文法力を育てるコミュニカティブな授業」。生徒の可能性を引き出す授業の実際:「生徒の発話をうながす活動」,「生徒を巻き込む授業作り」。英語教育のト−タルな指導理念と方法:「英語教育のアクション・リサ−チ」,「授業を最大限に生かす指導とテストの工夫」。高校英語の指導法:「高校英語のシラバスと運用能力」,「オ−ラル中心で4技能を育てる指導」。効果的なリ−ディングの指導法:「コミュニカティブ・リ−ディングの実践的指導法」,「英語論説文の理論展開と内容把握の方法」。
3)語学教育研究所主催「講習会」
1923年に創設されたThe Institute for Research in English Teaching(「英語教授法研究所」のちに,「語学教育研究所」に改称)は,ほぼその発足当初から研究大会や教員研修会を行ってきており,わが国で最も古い歴史を持つ団体である。1985年に英語教員対象の講習会を充実させ,東京で4日間の「夏期講習会」が行われ,ここ数年は毎回100名を超える参加者がある。また,1987年からは関西地区で3日間の春期講習会)を新たに発足させている。さらに,1989年からは東京でやはり3日間の「冬期講習会」も開催し,現在もその3種類の講習会を継続している。この他に,「ワ−クショップ・あらかると」が「学校で英語を学んでいる生徒たちを励ましてゆく方法を模索」という目的で,1回が3日にわたるワ−クショップが1985年から1988年まで合計39回行われた。単発であったが「ワ−クショップ・金曜講習会」(1986年)と「土曜ワ−クショップ」(1996年)も行われている。受講者の内訳も小学校,中学,高校,短大,高専,短大,大学の現職教員,塾・各種学校の教員,教員を目指す学生等となっている。創立者パ−マ−の言語教育理念を堅持しつつ,英語教育現場で何が必要かを意識した講習会内容であるが。ここでは,語研の中心的講習会である「夏期講習会」の過去3年間のプログラムを一括して挙げておく。
1998年度:「市川賞受賞者に学ぶ−英語構文の形式を意味」,「ことばのおもしろさを教える−語源」,「英語授業の編集−編集者から見た英語授業」,「繰り返し教えたい英語の基礎−授業実践に基づいて」,「教科書本文の読解指導」,「リ−ディング指導−読解力をつける授業の工夫」,「授業研究−習う・使う・広げる英語教育の実践」,「発音指導−小・中・高・大 どの学年もこの方法で上達させることができる」,「リスニング教材についての一考察」,「小学4年生に何が教えられるか−ビデオによる授業紹介を4年生の学習能力の考察」,「小学生は英語の何を学ぼうとするのか−精神発達段階から見た学習能力と学習内容の考察」,「教材配列:英語課カリキュラム」,「パ−マ−賞受賞者に学ぶ−この方法で生徒の表情も変わる」,「スピ−キング指導−指導の実際・評価の実際」。
1999年度:「市川賞受賞者に学ぶ−生成文法理論と言語習得理論」,「実践的コミニケ−ション能力の育成−長文を読みこなせるようにするための工夫」,「授業における評価−演習をとして学ぶテストの作成法」,「リスニングの指導について」,「アクション・リサ−チの勧め」,「公立長学校における『国際理解』その指導の実際」,「語学番組製作者の考える学習法」,「パ−マ−賞受賞者に学ぶ−学校全体で取り組む授業」,「高校3年間を見通した4技能の指導」,「鼎談:英語教育のかかえる問題とその解決法」,「パ−マ−没後50年」,「Harold E. Palmer: The Father of English Language Teaching」,「Palmer’s Work Outside Japan: Some New Findings」,「教師としてのパ−マ−から学ぶべきこと」。
2000年度:「新学習指導要領・・・その意義と課題」,「効果的なペアワ−クの指導」,「授業研究(中学校)」,「教科書の指導−使える英語を教える」,「授業研究(高等学校)」,「指導手順の考え方」,「キ−センテンス以外の言語材料をどう指導するか」,「マイクロ・ティ−チング:効果的な授業づくりとその改善方法」,「教育行政側から見た英語教育」,「効果的な音読指導」,「授業研究(小学校)」。
講習会の講師は,プログラムの内容により日本人や英語母語話者が登用されているが,主に日本の英語教育で指導的な役割を果たしている現職の英語教員が厳選されている。1985年からの講習会参加者総数は3,196名である。この研究所が創立されてからの受講者は2回の戦争を挟み講習会が中断された時期もあるので,正確なデ−タが入手できないが,日本の英語教育に及ぼした影響は質量共に極めて大きい。
4) 大学英語教育学会(JACET)主催「春期英語教育セミナ−」
中学・高校の現職英語教員を主な対象として,1992年に開始されたこのセミナ−は,年1回3月下旬に2日間にわたり開催され,定員は50名である。講師陣は主に大学英語教育学会の会員のうち,中学,高校の教員経験者,英語科教育担当者,検定教科書等教材作成の経験者で構成されている。このセミナ−は2001年で10回を数えるが,これまでの内容は次の通りである。
第1回:「英語教育の新しい動き」,「リスニングの指導」,「スピ−キングの指導」,「コミュニケ−ションのための英文法」,「日米コミュニケ−ションギャップ」,「学校英語とコミュニケ−ション」(シンポジウム)。第2回:「コミュニケ−ションとは何か」,「聞く・話す活動と検定教科書」,「聞く・話す活動と補助教材」,「読む活動とコミュニケ−ション」,「AETから見たティ−ムティ−チング」,「コミュニケ−ション活動と教授法」(シンポジウム)。第3回:「英語教育改革の方向」,「新しい評価理論」,「聞く・話す活動と評価」,「読む・書く活動と評価」,「異文化間コミュニケ−ションの教授法」,「コミュニケ−ション活動とその評価」(シンポジウム)。第4回:「リ−ディングの授業とその展開」,「ライティングの授業とその展開」,「生徒の心をつかむ授業の展開」,「オ−ラル・コミュニケ−ションの授業とその展開」,「コミュニケ−ション能力育成の指導と評価」,「Native Speakerから見た日本の英語教育」,「新しい授業の展開を求めて」(シンポジウム)。第5回:「英語教育と教材」,「「聞くこと」の授業と教材」,「「話すこと」の授業と教材」,「「書くこと」の授業と教材」,「「読むこと」の授業と教材」。第6回:「最近の英語教育の動向」,「読むこととコミュニケ−ション」,「書くこととコミュニケ−ション」,「文法とコミュニケ−ション」,「聞く・話すこととコミュニケ−ション」,「ネイティブ・スピ−カ−からの提言」。第7回:「Teaching to Transgress−empowering our students to question authority−」(講演),「小・中・高・大で目指すもの,有機的なつながりを求めて」(パネルディスカッション),「わが国の英語教育に未来はあるか」(講演),「21世紀の英語教育への提言」。第8回:「新指導要領と教授法」,「第ニ言語習得理論を新指導指導要領」,「言語管理から見た日本の英語教育」,「新学習指導要領と21世紀の英語教育」(パネルディスカッション)。第9回:「コミュニケ−ション能力の開発−理論を実践」,「リスニングを土台とした4技能の指導」,「全体討論」。第10回:「応用力を高める英語指導法改善に向けての課題−総合的な学習の時間の取り組みと小・中・高の連携」,「生きる力につながる総合的な学習の時間の具体的な取り組み−学習意欲を高める指導と基礎力を生かす発展学習」,「基礎・基本の定着を目指すアクション・リサ−チのすすめ−生徒の実態をニ−ズに応じた英語指導法研究」。
大学英語教育学会の教員研修で特筆すべきことは,高専,短大,大学の現職教員研修を1967年から1989年まで23回の夏期セミナ−を行ってきたことである。フルブライト委員会と語学教育振興会の経済的な支援を受けて発足したこのセミナ−は,参加者を30名に限定して,英語を使っての合宿生活の中で,国際的に高名な学者から英語教育学や英語学等に関する集中講義を受け,同時に英語運用力を強化する訓練を受けるという点で日本の英語教育史上,類まれな研修プログラムであった。第7回まではほぼ3週間であったが,2週間に短縮され,第18回からは1週間となった。開催場所も国内に限らず国際学会等の参加を兼ねて海外で開催されることもあった。このセミナ−の参加者総数は千名を超えており,この参加者の中から今日の英語教育の指導的人材が輩出されたことからその影響力の大きさを知ることができる。このセミナ−は1995年から「FD(Faculty Development)セミナ−」へと発展的転換が計られ,毎年12月下旬に2日間の短期研修を継続している。
5) 日本英語検定協会主催「STEP 2001英語教育セミナ−」
平成10年度に,日本英語検定協会の研究助成事業の一環として発足した「英検・講師派遣制度」は現職英語教員を対象としたセミナ−を開催している。参加費用が無料という点で,これまでになかった研修として注目されている。平成13年度に3年目を迎えている。参加者は1年目には300名,2年目には1,600名と急激に増加している。実践的コミュニケ−ション能力の育成に関する指導法を中心テ−マとして全国各地からの参加者を集めている。
(a) 参加者の内訳
2001年1月6日及び7日の2日間,東京都千代田区アルカディア市ヶ谷で開催されたセミナ−を例にとると,第1日目:6日の申込者数746名,第2日目:7日の申込者数856名,2日間の申込者総数が1,600名に登っている。実質出席者908名の勤務先別の内訳は,「小学校」8名(0.9%),「中学校」473名(52.1%),「高等学校」292名(32.2%),「中学・高等学校」63名(6.9%),「大学」12名(1.3%),「教育委員会」4名(0.4%),「企業・塾」12名(1.3%),「その他」44名(4.8%)。またブロック別の内訳は,「北海道」45名(5.0%),「東北」78名(8.6%),「関東」289名(31.8%),「東京」233名(25.7%),「甲信越」70名(7.7%),「東海・近畿」118名(13.0%),「中国・四国」52名(5.7%),「九州・沖縄」23名(2.5%)となっており,ほぼ全国から参加していることがわかる。セミナ−の内容は5つの講座と一つの特別講演から成っている。各講座は3つのクラスに分かれて全部で15クラスある。
(b)各コ−スのテ−マ
講座�@ 「小学校英語こんなふうにすすめてみたら」,「楽しい英語授業の原則と応用」,「高校英語教育における実践的コミュニケ−ション能力の養成法」,講座�A 「私立小学校における英語教育」,「中学英語教育の役どころ」,「アクション・リサ−チの手法を用いた高校英語授業の改善」,講座�B 「今英語教師として心得ておかなければならないことは何か」,「実践的コミュニケ−ションのための教室での言語活動」,「高校英語教育への提案:コンピュ−タソフトと本とリ−ディング」,講座�C 「授業に生かすMD・リズムボックスの実践的活用法」,「波及効果を考えた小テスト・定期テスト・不定期テストの工夫」,「コミュニケ−ション能力を高めるための4技能統合指導」,講座�D 「外国語教育における<基礎・基本>とは何か」,「スキットの段階的指導(ワ−クショップ形式)」,「日本語で言いたいことを英語に直す5つのストラテジ−」,「21世紀の英語教育を展望する」(特別講演)。
発足してから3年目で参加申込者が1,600名に達する現職英語教員の研修は他に例を見ない。日本英語検定協会がこの種の研修会を全国各地で開催することが期待される。研修日も2日間でなく,夏期休暇を利用して1週間あるいは2週間にわたる研修を企画することも不可能ではなであろうし,さらに,テ−マも指導法に限らず教員の「英語運用力」を高めるトレ−ニングのメニュ−も研修内容にとり込むことも可能であろう。
6) 上智大学主催「ソフィア・セミナ−」
このセミナ−は,1973年に上智大学国際言語情報研究所が主催となって発足し,1995年には外国語学部英語学科主催となって継続されている。目的は「日本の英語教員に,英語教員として必要な学問的知識及び英語力そのものを身につけること」となっており,毎年8月第1週目に6泊7日の集中講義,演習をすべて英語で行うものである。発足してから1985年までの13年間は参加が無料であり,運営費も上智大学英語科教員が作成したEnglish Masterの印税収入でまかなわれた。1987年以降は,参加費を徴収している。各セミナ−の募集数は原則として30名,セミナ−講師陣は主として上智大学教員とアメリカからの大学教員で構成されている。セミナ−期間中はすべて英語で行うという方針を貫いており,短期「国内留学」という位置づけが大きな特徴である。
7) その他の学会・研究会主催
財団法人の組織ではないが,英語教育関係の学会や研究会が中心となり,採算を度外視して現職英語教員のための講習会,セミナ−等の研修会を定期的に催している。その数は決して少なくないが,研修会の多くが年間1〜2回の開催で各回が数日で終了しており,研修内容を有機的・組織的の累積しにくいところがある。これは主催者側の問題というよりも,参加する現職教員の多忙さを考慮した日程を組むことにより,参加の可能性を重視していることによるものと思われる。いずれにせよ,どの研修会でも日本の英語教育を改善しようという目的で「無償の努力」を長年にわたって続けている事実は十分評価されるべきものである。ここでは,主に中・高の現職英語教員を対象とした研修会のうち,その代表的なものを挙げておく。
(a) 外国語教育メディア学会(LET):「中学・高校教員のための英語教育セミナ−」やその他要望に応じて講習会を行っている。
(b) JALT:各支部・グル−プごとに例会を開き,実践報告や講演会を行っている。
(c) 全国英語教育学会:全国にある8つの英語教育学会の集合体であるが,各学会では定期的に例会を開催している。
(d) 英語授業研究学会:関西支部及び関東支部がそれぞれ毎月1回の例会を持ち,中・高・大の教員が参加する例会を行っている。
(e) GDM英語授業研究会:年数回の数日間の宿泊セミナ−があり,授業技術の講習会を開催している。
(f) 新英語教育研究会:各支部や各ブロック単位で講演会や実践報告を中心とした例会を行っている。
比較的小規模であるが,非営利的な活動を着実に続けている団体が数多くある。これらは現職教員研修及び教員養成のための「草の根」的存在として貴重であり,これからの発展が期待されている。この種の団体やその研修会は今後も増える傾向にあるが,ここではその主な研修会の名称のみを記す。
「英語授業研究会(東京,岡山)」,「新しい英語教師のためのワ−クショップ」,「大塚英語教育研究会」,「英語教育達人セミナ−」,「松香フォニックス研究所講習会」,「SURE英語教育研究会」,「日本サジェストペディア学会ワ−クショップ」,「国際コミュニケ−ション英語研究所(IRICE)実践講座」,「ELTセミナ−」,「英語授業上達講座&法則化合宿実践講座」,「英語記号付研究会」,「阿波池田ジャンボ−ズクラブ四国夏季英語セミナ−」,「英語授業実践セミナ−」,「別府夏期英語セミナ−」,「NHK英語教育セミナ−」,「British Council小学校英語担当教員対象のワ−クショップ」,「LIOJ英語教育者のためのサマ−ワ−クショップ」,「IIEEC教師トレ−ニングセミナ−」等。
8)日本で学べる海外の大学大学院プログラム
日本にいながら,海外の大学の大学院プログラムを受講することができる。勤務校の所在地にもよるが現職の教員が仕事を続けたままで,海外にある大学本校とほぼ同じカリキュラムで学修することが可能である。平成13年度から発足する「大学院修学休業制度」によりこのプログラムを利用する教員が増えるものと思われる。Temple University JapanではM.Ed.とEd.D.,またColumbia University Teachers CollegeではMAが取得可能である。前者では平日夜間または週末,後者は毎週土・日曜日の受講ができるようになっている。
3.「在宅研修」
上記で述べた「自主研修」は,その種類こそ数多いものの,実際に研修に参加の機会は意外に少ない。夏休みを利用した私費による研修会にすら参加するのも容易ではないのが実情であろう。日々の授業をこなし,学級担任や教科担任に係わるさまざまな校務分掌を持ち,補習や部活の指導を行い,クラス外での生徒・父母との対応に追われている現場の教員としては,研修に参加しにくいというのが現実であり,たとえ研修参加の許可を得ることができても,その前後にはかなり厳しい勤務をこなし,周囲の同僚にも気を使うことになる。
教員自身が日々の生活の中で自らのペ−スにより独力で行える,いわゆる「在宅研修」は外的な制約を受けずに済む。この種の自己研修・研鑚をここでは便宜上,「在宅研修」と呼ぶこととする。この研修は,これまでに述べてきた「公費研修」や「自主研修」に劣るものではない。むしろ,教員の資質能力向上を継続的に推進して,最終的には教員研修の目標を「自立的な自己開発(Independent Self-development)」ができる資質能力の獲得を目指す「生涯研修」と捉えるならば,その研修形態は極めて重要な位置を占めることになろう。
明確な到達目標を設定して,自分で決めた計画に沿って,一定期間研鑚に励むことは,お仕着せの「研修」で,必ずしも自分の求めていないメニュ−をこなさなければならない場合よりはるかに効果的な場合もある。「公費研修」や外部団体による「研修」を受けた場合でも,いずれこの「自学研修・自己研鑽」に繋げて,日常的に個人のレベルで継続できる「資質向上の努力」こそがが,現職の教員には必要である。各種の公的研修を受けて「よい刺激となった」と思えても,その後に続く研鑚がなければ,「一過性の満足感」を味わったという域を出ない。そこから脱するためには,公的研修に続く「在宅研修」のメニュ−を自ら選択して,自己にふさわしい研修計画を作成することが現職教員研修の実行を上げるには欠かせないものである。
「在宅研修」は実に多種多様にわたる。教員個人としての捻出できる時間やライフスタイルによって,その選択する学習・研鑚内容や取り組み具合や,あるいは重点の置き方が変わってくるが,おおよそ次のようなものが考えられよう。
(a) 原書(英語教育に関するものと限定する必要はない)や英字新聞を読む。
(b) 英語放送やニュ−スを視聴する。
(c) 英語の通信教育講座を利用する。
(d) 直面している英語教育上の問題や手がけている研究テ−マに関連した情
報(英語・日本語)を専門誌・新聞・雑誌・インタ−ネット等から入手する。
(e) 国内の英語教育関係の専門誌に投稿する。
(f) 国内外の英語教育関係学会等で研究発表を行ったり,あるいは学会誌に
論文を投稿する。
(g) インタ−ネットを用いて英語力を向上させる。
(h) 英語能力試験(TOEFL,TOEIC,英検,通訳案内業試験,商業英語検定,国連英検等)に合格するための準備をする。
(i) 地域社会在住の英語母語話者との交流を図る。
(j) 国内外の通信教育大学院のコ−スを受講する。
これらの「在宅研修」は「学ぶ場所」といった物理的要因に関係なく,日々の生活の中で取り組める範囲のものである。しかし,自宅で行われるこのような「自学研修・自己研鑚」以外にも,校務が終了してから「英会話学校に通う」教員や,夏期休暇を利用して個人的に「海外語学研修に参加する」教員も存在するはずである。これらの研修は校務を離れて,プライベ−トの範囲で行われれば,当然「在宅研修」の範疇に含まれてくる。
この「在宅研修」の中で特に言及しておきたいのは,上記の9)「英語能力試験」についてである。現職教員はその英語力を向上させる努力を続けない限り,当然のことながらその運用力は時間の経過とともに衰えてくる。Strevens(1980)も強調しているように,外国語教員が備えなければならない資質能力のひとつに,教科科目の対象である「外国語能力」を挙げている。教員は”awareness of the need to continue to improve his foreign language skills and to stave off the effects of normal personal foreign language attrition”という強い自覚を持ち,自らの英語運用力が「摩滅」し,「さび」つかないように努力をすることが求められる。しかし,日本では,現職英語教員が上記のような英語能力試験を受け,高得点とマ−クしようとも,あるいは上級の「検定試験」に合格した場合でも,現在ではそれを教育委員会や勤務校が評価するシステムが存在しない。この点をどのように改善して行くかが,これからの日本の現職英語教員研修の大きな課題である。外国語の運用能力は,一時期に獲得した高い能力でも,それを維持するための積極的な努力をしない限り,徐々に衰え,かつ劣化するということが避けがたい特性を持っている。いわば「賞味期限」が短い能力であることを忘れてはならない。したがって,能力試験や検定試験もその「有効期限」を設定し,その期限を越えても,なお変わらずその運用能力を維持している場合や,あるいはレベルアップさせたという事実が客観的に証明された場合は,その努力は正当に評価されなければならない。教員の英語運用力を評価するシステムが、教員研修の一環として制度化されたあかつきには,「英語コミュニケ−ション力」をつけるための「在宅研修」も奨励されることになり,それに向けて努力する教員が格段に増えることは明白である。また,教員自身の運用力向上を目指す努力が,教室内の「実践的コミュニケ−ション指導」に一層の改善をもたらす誘引となろう。さらにそこから「授業方法」の工夫等の視点が新たに生まれ,停滞した英語教育を変える基盤が固まるものと思われる。今後の大きな課題として,このような個人単位で推し進められる「在宅研修」の成果を,自己申告に基づいて認定するような制度を,都道府県の各教育委員会が発足させることが急務である。
IV 現職英語教員研修の問題点と今後の課題
現職教員研修には,どこか「特定の期間」に「定量の研修」を受ければ済むという感じがつきまとう。確かに,教員も社会の変容や教育環境の変化が急激でなかった時代には,それほどあくせくせず,自らの資質能力を高める努力をしなくても支障をきたすことが少なかった。しかし,現代はますます加速する科学技術の進歩と経済の発展により,十数年前では想像もできなかった情報化,国際化,価値観の多様化を我々の日常の生活にもたらしている。この予想外の変化が教員にも多くの変容を求めざるをえない状況が現出している。ひとつには,かつては学校でしか与えられなかった知識の「陳腐化」である。知識だけに限定するならば,学習者は学校に依存しなくても入手できる時代になった。もうひとつは,外国語である英語が,生きた言語として「使う場面」が日常的に現出していることである。これは,学習者が必ずしも英語での対話の当事者になることを意味しているわけではないが,茶の間のテレビやビデオを介して,英語使用の場面が,ごく普通の生活に進入してきているという事実となって現われている。このような状況に取り囲まれている教育環境では,英語をダイナミックに使いこなせる能力を持っていることが教員に対して強く要求されてくるのはごく当然な成り行きである。しかし,教員側からすれば,その現実は,時として過剰な要求を強いられる感じに受けとめられ,厳しい重圧としてのしかかってくる。今ほど,英語教員が精神的安定を欠く時代はない。だからと言って,現職の英語教員を続ける限り,学習者の期待するものや社会が要求するものの,すべてではないが,その何割かを満たしていく義務があるのではないかと思われる。この義務は教員個人によって受け止め方が異なるところであろう。
一方、生徒の学習スタイルや授業の取り組み具合も年々変わってきている。かつては,いったん授業が始まれば教室も「一国一城の主」としての聖域が認められ,教員としの尊厳がそれほど損なわれないよき時代があったように思われるが,それも生徒の積み重ね学習への耐性の喪失に加えて,ALTが入ってきたために,様相が一変した。文法訳読法で進める知識集約型の一方通行的な授業は,確実にその存在意義が薄くなってきている。
このような状況の中で,英語教員は「薬籠中の物」を振りかざすだけでは,到底その職務はまっとうできなくなった。たゆまざる自己啓発として,生徒に学習成就感と達成感を味わせることのできる「指導技術」と「英語コミュニケ−ション力」の向上のために研修・研鑚を積まねばならない。それでは,教員自身の資質が高まり,授業改善に直結する研修・研鑚をどのような方向で積み重ねて行ったらよいのであろうか。
1.リフレクションによる研修の必要性
生徒集団や個々の生徒の特徴を知り,毎回の授業を過不足なく実践する力量は,1年や2年では決して身につけられるものではない。教材の特性を知り,生徒の興味を喚起しながら行う英語の授業力は,八田(2000)も述べているように,「専門教科の深い知識」と「実践的な経験知」と「授業に対する絶えざる反省(リフレクション)」によって培われていく。また,その熟成を促すには個人的な学習だけでは効果的ではない。同僚や熟練教員,“Teacher Trainer”や教員養成・研修の専門家の援助を受けて,「よい授業」を作る実践研究を重ねて行かなければならない。
教員が,教員研修を受けてベテラン教員をして自立するまでの道のりは決して平坦ではなく,絶えざる授業研究や指導技術の研鑚を積み重ねていく中で次第に形成されて行くものである。着実な「授業実践」と「反省」なくしてはありえない。そのプロセスは,教員養成段階を含め教員研修のライフ・ステージの観点から,次のように分けられよう。
1)教員になることを志して「教職単位」の履修を開始する「準備期」。
この時期に,将来教壇に立つことを意識して英語教員としての基本的な資質を身につけ始める。自分が受けてきた英語教育を思い出して,その意味を「問い直す」重要な時期である。まだ,教職につくかどうか決めかねて揺れ動いている時期でもある。この時期に出会う「英語科教育法」担当教員の存在は大きく,英語科教員の「専門性」だけでなく,英語を教えることの「やりがい」や「奥の深さ」を知り,それまでに受けてきた授業内容や学習体験を振り返りながら,教員となった場合の自己の「姿勢」をうち立てようとする。教職科目を履修する前に「教員になる決意を固めている」学生がほとんどである欧米の場合と違い,教員免許制度が「開放性」である日本では,履修動機が多様な学生が混在しているのが実情である。この時期は教員になる決意を固める「準備期」あるいは「揺籃期」と呼べよう。
2)教育実習生としての実地指導を受ける「実習期」
まがりなりにも教壇に立ち「先生」と呼ばれる体験を重ねる,いわば「見習」と呼べる期間である。短大・大学で受けた授業内容とこの時期の実地体験がいかに食い違っているか,あるいは同調しているかを吟味することになり,同時に自分の指導技術の拙劣さを思い知ることの多い時期でもある。「実際の確認」,「実行」,「観察と評価」,「反省」が連動して次の段階への「改善」に繋がっていくことを知る。「教科教育法」担当者よりも実習校の教科指導教員の役割が大きくなる。実習生同士で行う授業の合評や分析は,授業改善のプロセスを体得できる貴重な場である。「実習記録」に記載する以上に多くの貴重な資料を得る機会となる。この期間中に学び得た事実を書き留めておく「発見記録」は,項目を網羅したチェックリストや記述式もあり得るが,短期間に多くの発見が次々に出てくるので,実際には計画的に内省を行うきっかけを与える「記録簿」的なものとなる。
3)英語教員として教壇に立った初年度から数年間の「模索期」
赴任校が決まり教員としての勤務が始まる数年間は,その後の教員のあり方を決定づける極めて重要な時期である。「初任者研修」を受けて,教員としての覚悟が固まってくる。校内での実践を重ねながら,教員としての自立性を意識するのと同時に,教科を同じくする教員同士の「連帯感(Solidarity)」や,また教科の枠を超えて「同僚性(Collegiality)」の重要性にも気づき始める時期である。どのような改善のための行動を起こせるかを自らに問い始め,英語教員としての専門性を意識する「自己確立」への足がかりをつけるの時期である。教員同士が授業を公開し合う状況が整っている勤務校であれば,そこでの「校内研修」から何よりも多くのことが学べる。各々の授業において「問題の発見や現象の確認」,「改善の計画と立案」,「計画の実行」(実地授業),「観察と評価」,「反省」等が繰り返されことになるが,まず自分の授業に対する問題を発見する手がかりを得るために,自らの授業を他の教員に見てもらう勇気と問題意識を持てるかが問われてくる。また,教員同士で授業を相互の参観できにくい学校に身を置いている場合には,授業改善のための行動をどのようにして起こし始め,実践に結びつけるかという問題が生じてくる。
いずれにしても,指導技術に関しては,他人の授業を多く観察することと,自らの授業を多数の教員に参観してもらい,問題の指摘・確認をしてもらうことである。その意味では,「教科」や「校内」といった枠を超えて授業研究は可能である。学校内外の志を同じくする教員仲間で,ビデオ等で撮った授業を公開しながら授業改善のヒントを得ようと願って行動を開始するような時期でもあろう。
4)実践に理論的な裏づけをしてゆく「確立期」
公立学校の教員にとっては複数の学校を赴任して多様な学習者に教える経験を重ねて,授業改善や指導技術のノウハウが蓄積される時期である。模索を続け「有効な指導方法」を抽出して,問題の類似性から普遍的な処方箋を出せないかという意識に目覚め,方法論を「確立」したいと願う時期である。当然,問題の確認方法や計画立案の手順,それらを授業に結びつける実際指導,授業観察・評価の方法等について,他の教員からの助けを得ながらも「リフレクション」を深化する活動は継続される。上記3)の「模索期」と異なるのは,一過性の対処法で満足せず,類義した局面に一定した効果をもたらすプロセスを確立するために理論的な裏づけを試みようとする点であろう。いわば,指導方法改善の方法・手順に関して客観性を希求する時期である。英語という科目の授業に固有な方法論もあるが,教科を超えて有効性の高い方策があることも,さまざまな教育現場を経て体得できる時期である。
5) ベテラン教員として普段の授業を公開できる「熟練期」
「確立期」の後半には,日常的に実践している授業を,要請に応じていつでも公開できる「熟練期」が控えている。熟達した「授業の技量」を学習者や学校の特殊性に応じて使い分けることのできる円熟期である。もちろん,変数が多く「生きもの」である個々の授業は,どのようなベテランの教員が担当しても円滑に進まず頓挫する局面が現出するが,この時期の教員はそれを最小限の破綻で切り抜ける方法を熟知している。また事後にその問題の分析が行え,速やかに代替案を立案した上で,それを実行に移し,問題処理を行える力量を備えていて,ほぼ「完成期」とも言える域に達する。この時期の教員は,参観される授業の種類や時期を,教員側からは指定することなく,いつでも公開できる資質能力を備えていることが求められる。しかし,この時期でもより完成度の高い授業をめざして「リフレクション」が行われる。つまり,授業内容を個々の学習者にどれだけ深く定着させたかという「授業展開や進行」とは別な次元での「反省」を続けて行くことになる。
6) Teacher Trainerとしての「還元期」
教員自らが「リフレクション」をとして自分の行動や心理状態を明確に言語化でき,適切なる指導が行え,より良質な実践が可能になる「熟練期」を経た教員は,やがて職制上の名称がどうあれ,実質的には“Teacher Trainer”のような立場に立ち,後進を指導し,助言するようなことが求められる。校内・校外研修等で同僚や経験を多く積んでいない教員に「現場において(on-site)」問題解決のための処方箋を与えたり,共同作業としての授業研究を設定したり,英語運用力を含めた研修やその企画を行うこと等が含まれてくる。この段階では,発展途上にある教員を,いかなる方法を用いてどのような踏んで伸長させられるのか,あるいは教員相互の啓発や経験・情報の交流が図れるのか,さらに協力態勢が得られるのか等々に関しても,自ら「リフレクション」を続けていくことになる。望むらくは,この立場に立った者でも自ら現場で直接生徒を教える時間を確保したい。現場教育から離れて時間がたつにつれて,現場の実情に密着した形の指導がしにくくなるのは避けがたい面がある。現場での「授業実践者としての時間確保」と「Teacher Trainerとしての時間確保」の間の調和を保つことで,「指導技術改善」と「教員の資質向上」に関して望ましい働きができるものと思われる。しかし,現在のところわが国ではこの“Teacher Trainer”としての専門職が,職制上では認められていない。この専門職の存在は,当該教科の専門性を推進する上で「かなめ」となり,現職教員研修だけでなく,教員を養成する際の実習生を指導するのにも必要であり,またその果たす役割も極めて大きくなるはずである。
現場に立つ英語教員の仕事には,これで「完成した」と断定できる時期は存在しない。教壇に立つ者は,「教員の卵」である“novice teacher”の時期を経て,存在しうる最も完成度の高い時期に至るまでの連続体のどこかに位置しており,「よりよき教員」のあり方を求め,授業改善の試行錯誤を重ねながら,自らの資質能力を高めて行かなければならない。成長過程という連続体のいずれかに位置する教員は,その到達段階に応じたリフレクションを積み上げて,着実に成長を遂げて行ける存在であろう。
2.自立的な教員を目指した段階的研修の必要性
教員研修の最終目標のひとつは,自らの判断により「研修・研鑚」を継続できる「自立的な教員」を生み出すことにある。個人レベルで行われる研鑚は教員ひとり一人の資質能力を高める上で大事なものであるが,最大の難点はその目標値を設定しにくいところにある。努力目標の内容や手順が具体的に示されれば,それを攻略する方策も立てやすくなる。この目標を立てる材料や指針となるものは,教育現場の校内にあると考えられる。周囲に指導技術や英語運用力や生徒把握力。機器活用力に優れた同僚は必ずひとりやふたりは見出すことが出来るはずである。自立的な研修を支える仲間は勤務校内に見出せるという視点に立ち,「校内研修」の充実を計ることに力を注ぎたい。諸会議や多くの校務分掌等によって思うように実施できないという現実も存在するので,教員相互の協力によって,学校の機構や組織の単純化を実現し,校内研修の時間を確保する努力が何よりも優先されなければならない。
また,教員はその専門性の成熟度,完成度により研修の質や内容が異なるものである。その点から,自らの必要度に応じて,公費研修に出席できる態勢作りが求められるし,同時に「研修内容」を自ら選択できるような研修項目の多様化の推進が望まれる。
将来的には,現場の複数の教員が自分たちの必要とする「研修」の内容を提示して,それに合致した研修プログラムが企画されるというのが理想である。そのためには,現場のニ−ズを調査し,それを踏まえた形で研修プログラムを立案,実行,評価が実施できる研修の研究開発機構の創設が望まれる。
教員個人が自立的にその資質能力を伸ばすには,教員個人の自助努力に負う部分と,教員を取り巻く校内態勢の改善に負う部分とに大別されよう。つまり,自己研修に積極的に取り組む意欲を喚起する目標値の設定と,校内研修が継続できる学校内の協力体勢の整備が,自主的に研修を進め「自立した」教員を生み出す前提になると思われる。
3.研修参加を阻害する要因の究明
現在では,校長が認可した「公費研修」でさえ,臨時教員の補充ができる財政的措置が伴わない場合は,同僚に迷惑がかかるのではないかという気遣いから,研修に参加する意欲を喪失させてしまう例が少なくない。この状況は週末に行われる1~2日の自費による研修でも大差はない。これは,日本人に特有な他人に先駆けて事を起こす場合に見られる「遠慮」や「気がね」に起因するところがあろう。しかし,それ以上に校務に負われている教員の姿が背後にあると思われる。いわゆる「三種の神器」といわれる「生徒指導」,「部活指導」,「進路指導」からの負担軽減をする策を講じなければ,「気遣い」の呪縛から逃れることはむずかしい。ただでも,授業が円滑にとりおこなえない要因が増えてきている中で,外部の研修に出にくくなっている真の原因は何であるかを究明する必要がある。それが特定できれば,その要因分析を行い,ひとつひとつ負荷を除去する手だてを講ずることが可能になる。英語教員に固有な心的傾向であるかもしれないし,他教科の担当教員にも共通する因子があるかもしれない。いずれにしろ「多忙である」と言わしめる教員の抱えている仕事の量と質を吟味しなければならない。「多忙である」というのは,決して健康的な状態ではなく,「専門職性」を追求する意欲を削ぐ主要因であり,資質能力を向上させ,研鑚を積もうとする探求心を阻害するものである。また,研修内容やその形態の検討も非常に重要なものであるが,研修終了後,その研修内容がそれだけ現場で活かされるようになったかも含めて「評価」システムがどうあるべきかについても,今後の検討課題として視野に入れなければならない。このように研修参加を阻害する要因を多角的に明らかにすることは,今後とも現職教員の研修参加を促進するためには欠かせないものである。本プロジェクトチームでは、その究明には「公費研修」を受けた教員を対象として調査を行うことが最適であると考えている。すでに予備的な調査は実施済みであるが,今後さらに調査の規模を拡大して,この問題の核心に少しでも近づきたいと考えている。
4.研修内容の検討とそのカリキュラム研究開発の必要性
英語科教員としての見識を豊かに持ち,その職務を完遂するためには,特定の時期に限られた「指定研修」を受けるだけでは,もはや不充分である。谷口(2001)も述べているように,教員の「教職人生」を成長の連続体として捉え,その成長段階の必要に応じた「自主的な研修」が選択的に行われるようなシステムが構築されることが求められている。さらに,現場に立つ教員の抱える問題解決にも対応できるような研修のカリキュラムが組まれることが必要である。このカリキュラム設計には,教員自らが始動して,その資質能力を向上させようとする意欲に基づいた「研修計画」を立てることが前提となってくる。おのずと,校内研修で行われるものと校外研修の方がより効果的なものかが区別され,その相互の有機的な関連性も意識され,校内の英語科教員全体で検討される必要が出てくる。
この視点から,校内・校外を問わず,実際に行われる英語教員の研修内容を考えると,少なくとも次のような項目がコアとして考えられよう。
(a) 英語運用力の強化:日本人教員弱点である「聞き,話す」運用力の向上に重点を置くが,それにとどまらずAETとの共同授業を円滑に行うための交渉能力向上を目指す。したがって,「読む,書く」能力の強化と連動するものである。教員の英語力次第であるが,基本的にはcontent-baseで行われるべきものである。
(b) 英語指導技術力の強化:多様な動機,学力,理解力を持った生徒に対応できる指導方法について,peer teachingやmicro-teaching,あるいは模擬授業により有効な指導技術を探る。指導している生徒の特徴や実態を踏まえた指導方法を探ることが目標となる。
(c) 教材活用・補充方法の強化:指定教科書を生徒の実態・実情に合わせて活用し,あるいは補充する方法を研究する。検定教科書外の教材として,文字教材のみならず,さまざまな音声教材,映像教材の入手方法や活用方法も含まれる。
(c) 教育機器活用法の強化:英語の授業を豊かにする教育機器を使いこなせる技能を習得する。コンピュ−タが搭載された「マルチメディア」と総称される機器を教室環境で活用する以外にも,生徒に教室外での自学習を行わせる方法を研修する。
(d) 異文化理解・国際理解力の強化:英語を通してコミュニケ−ションを円滑に進めるのに必要な英語母語・非母語話者の文化的,社会的,歴史的,言語的背景等に関する知識を深める。ミスコミュニケ−ションが生ずる原因を究明し,異言語間,異文化間の交流の意義について理解を深める。
これらは,研修内容の概略であるが,実際の研修カリキュラムは,研修参加者である現職教員のニ−ズを基に,入手可能な予算,講師,教場,教材,日程等を決定しなければならない。どの研修内容を盛り,いかなるカリキュラムを組めば最適な効果を生むかを検討するには,専門家チ−ムが必要だと思われる。都道府県の各教育委員会や教育センタ−が互いに連携して,必要情報を交換できる全国レベルのネットワークの構築が求められているのではなかろうか。研修の企画立案・実行・評価を行った後に入手できるさまざまなノウハウは,特定の機関(たとえば「英語教員研修開発研究所」のような専門機関)を創設して逐次蓄積して行くことが,よりよい研修カリキュラムを生み出すためには必要となろう。
そのような研修研究開発の拠点では,「公費研修「や「自主研修」や「在宅研修」の目標値を設定して,教員がそれをクリア−する方法や手順,さらにそれを達成した場合の評価システム等を検討することも可能であろう。そして,このような情報のみならず,研修に関する周辺情報等を集積して,それを必要とする者にアクセスできる支援システムの構築もなされなければならない。このような支援システムの構築は都道府県単位で個別に行うこともあり得るが,それらを統合した形で推し進める方がよりよい効果が期待できよう。
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